宮下奈都さんの小説『羊と鋼の森』を読み終えました。

この物語は、時間の流れがとてもゆったりと感じられ、まるで森の中にいるかのような心地よさに包まれます。物語の軸となるのは、ピアノの調律師という少し珍しい職業。彼らが音と真摯に向き合い、一台一台のピアノに命を吹き込んでいく姿が丁寧に描かれています

 

主人公の成長物語としても胸を打たれるものがありました。一つの道を深く、深く突き詰めていく。その過程で出会う葛藤や喜び、そして確かな成長が、静かな筆致で綴られていきます。

 

私自身、鍼灸師として日々の臨床に立つ中で、この物語に深く共感する部分が多々ありました。患者様の体調を改善するために、鍼灸の技術、知識、そして食事療法に至るまで、様々なアプローチを学び、実践しています。これもまた、一つのことを突き詰めていく作業です。主人公が音と向き合うように、私もまた、患者様お一人おひとりの身体と真摯に向き合い、その声に耳を傾ける。そういった意味で、彼らが歩む道と私のそれが、とてもよく似ていると感じました。

 

物語の舞台は、北海道の豊かな自然の中。主人公がそこで育まれたことが、彼ならではの繊細な感性や、音に対する深い洞察力に繋がっているのだろうと感じました。自然の中で五感を研ぎ澄ますことで、他にはない感覚が育まれる。それは、人工的な環境では決して得られない、かけがえのないものなのだと改めて気づかされました。

 

私自身も、常に自然が持つ力に魅了されています。山や川、そして木々が織りなす風景の中に身を置くたびに、心が洗われ、新たなインスピレーションが湧いてくるのを感じます。きっと、自然が私の感性を豊かにし、人として、そして鍼灸師として、より深く物事を感じ取る力を与えてくれているのでしょう。

 

『羊と鋼の森』は、私たちに「道を究めることの尊さ」そして「感性を磨くことの大切さ」を教えてくれる一冊でした。

 

静かに、しかし確かに、心に響く珠玉の物語です。

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