「脂質は太るから、できるだけ控えたほうがいい」
そう考えて、油を使わない、肉の脂身はすべて避ける、卵黄を控える、魚もあまり食べない……という食生活になっていませんか?
これまで糖質、タンパク質の必要量についてお伝えしてきましたが、今回は「脂質」についてです。
私が患者さんの食事内容を確認していると、脂質を摺りすぎている人だけでなく、むしろ必要な脂質まで減らしすぎている人が少なくありません。
脂質は悪者にされがちですが、本来は私たちが生きていくうえで欠かせない栄養素です。
大切なのは、脂質を一律に避けることではありません。
「どのくらい必要なのか」「どの脂質を選ぶのか」を知ることです。
脂質は1日何グラム必要?
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人の脂質摂取量は、1日の総エネルギーの20〜30%が目標とされています。
脂質は1グラムあたり9キロカロリーなので、次の式で目安を計算できます。
1日の摂取エネルギー×20〜30%÷9
具体的な目安は次のとおりです。
- 1,600kcal:約36〜53g
- 1,800kcal:約40〜60g
- 2,000kcal:約44〜67g
- 2,200kcal:約49〜73g
たとえば、1日1,800キロカロリー程度を必要とする人なら、脂質は40〜60グラムほどが一つの目安です。
これは調理に使う油だけの量ではありません。
卵、魚、肉、大豆製品、乳製品、ナッツなどに含まれる脂質も、すべて合計した量です。
そのため、「油を1日40〜60グラム飲みましょう」という意味ではありません。
脂質は、ただのエネルギー源ではありません
脂質には、次のような重要な役割があります。
1.細胞膜をつくる
私たちの体は、数多くの細胞でできています。その細胞を包む膜の主な材料の一つが脂質です。
脂質は、細胞をただ囲んでいるだけではありません。細胞の内側と外側で情報や栄養素をやり取りするためにも必要です。
2.ホルモンの材料になる
コレステロールは、エストロゲンやプロゲステロン、テストステロン、コルチゾールなどのステロイドホルモンをつくる材料になります。
「コレステロール=悪いもの」という印象が強いかもしれませんが、コレステロールそのものは、体に必要不可欠な物質です。
ただし、脂質をたくさん食べれば女性ホルモンが増える、という単純な話ではありません。コレステロールは体内でもつくられており、更年期症状の中心には、卵巣機能の変化に伴うエストロゲンの揺らぎや低下があります。
それでも、極端な脂質制限やエネルギー不足が続けば、ホルモンをつくるために必要な栄養環境を十分に支えられなくなる可能性があります。
3.胆汁酸やビタミンDの材料になる
コレステロールは、脂質の消化を助ける胆汁酸や、ビタミンDをつくる過程にも関係しています。
胆汁は脂質を消化・吸収するだけでなく、体内で不要になった物質を排出する働きにも関わっています。
4.脂溶性ビタミンの吸収を助ける
ビタミンA・D・E・Kは「脂溶性ビタミン」と呼ばれ、脂質と一緒に摂ることで吸収されやすくなります。
野菜をしっかり食べていても、ドレッシングも油もまったく使わない食事では、脂溶性ビタミンを十分に活用できない可能性があります。
5.必須脂肪酸を補給する
オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸の一部は、体内で十分につくることができません。そのため、食事から摂る必要があります。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人のオメガ3系脂肪酸の目安は、年齢や性別により1日約1.7〜2.3グラムとされています。
オメガ3系脂肪酸は、サバ、イワシ、サンマ、鮭などの魚や、えごま油、アマニ油などに含まれています。
脂質不足が、更年期の不調に重なることも
更年期には、女性ホルモンの変化によって、ほてり、発汗、動悸、眠りの浅さ、気分の落ち込み、疲労感、皮膚や粘膜の乾燥など、さまざまな症状が現れます。
これらを、すべて脂質不足で説明することはできません。
しかし、更年期の時期に「太りたくないから」と糖質だけでなく脂質まで大幅に減らすと、エネルギー不足、必須脂肪酸不足、脂溶性ビタミンの吸収低下などが重なり、もともとの不調を強く感じる一因になる可能性があります。
特に、
- 朝はパンとコーヒーだけ
- 昼はおにぎりや麺類だけ
- 夜は鶏むね肉とノンオイルサラダ
- 卵黄や青魚、ナッツを避けている
- 調理油をほとんど使わない
という食生活では、一見ヘルシーに見えても、脂質が不足していることがあります。
疲れやすさ、空腹感、肌の乾燥、便通の変化などがあっても、それだけで脂質不足とは断定できません。しかし、食事全体を見直す価値はあります。
LDLは、本当に「悪玉」なのでしょうか?
添付の分子栄養学的な血液検査資料では、脂質に関する観察の目安として、中性脂肪100mg/dL、HDLコレステロール70mg/dL、LDLコレステロール139mg/dLなどが記載されています。
また、LDLが運ぶコレステロールには、
- 細胞膜の材料になる
- 胆汁酸の材料になる
- ビタミンDの材料になる
- 性ホルモンや副腎皮質ホルモンの材料になる
という役割があります。
ただし、ここで注意したいのは、「LDLには必要な働きがある」ことと、「LDLが高くても問題ない」ことは別だという点です。
LDLはコレステロールを運ぶ粒子であり、血中に多すぎる状態が続けば、動脈硬化のリスクになります。一方で、低ければ低いほどすべての人にとって良いとも単純には言い切れません。
血液検査では、一つの数値だけを見るのではなく、総コレステロール、HDL、LDL、中性脂肪に加え、血糖、肝機能、甲状腺機能、体重変化、食事量、服薬状況などを合わせて判断する必要があります。
「脂質を増やす」より「脂質を選ぶ」
必要量を摂るといっても、揚げ物、お菓子、加工肉、菓子パンを増やすという意味ではありません。
意識して摂りたいのは、次のような食品です。
- サバ、イワシ、鮭などの魚
- 卵
- 納豆、豆腐などの大豆製品
- アーモンド、くるみなどのナッツ
- アボカド
- オリーブオイル
- えごま油、アマニ油
反対に、バター、脂身の多い肉、加工肉などに多い飽和脂肪酸は、成人では総エネルギーの7%以下が目標です。
1日1,800キロカロリーの場合、飽和脂肪酸は約14グラム以下が目安になります。
脂質は「摂るか、摂らないか」ではなく、飽和脂肪酸に偏りすぎず、魚やナッツ、オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸へ置き換えることが大切です。
1日50グラム前後のイメージ
たとえば、次の食品に含まれる脂質を合計すると、およそ50グラム前後になります。
- 卵2個:約10g
- 納豆1パック:約5g
- 鮭1切れ:約10〜15g
- アーモンド20g:約10g
- 豆腐150g:約5g
- 調理に使う油・小さじ2:約8g
食品の種類や量、調理法によって数値は変わりますが、油だけを大量に追加しなくても、さまざまな食品を組み合わせることで必要量に近づけられます。
脂質は「避けるもの」ではなく「体を支えるもの」
脂質は摂りすぎれば問題になります。しかし、不足しても体は困ります。
特に、疲労感や睡眠の問題、肌や粘膜の乾燥、更年期の不調などがある人ほど、「脂質は悪い」という思い込みだけで極端に減らしていないか、一度確認してみてください。
大切なのは、
脂質をゼロに近づけることではなく、必要量を良い食品から摂ること。
そして、血液検査のコレステロール値も「善玉か悪玉か」だけで判断せず、体全体の状態や食生活と一緒に見ることです。
体調を整えるための食事は、何か一つの栄養素を怖がって排除することではありません。
糖質、タンパク質、脂質を、それぞれ必要な量だけバランスよく摂ることが、回復できる体をつくる土台になります。
※胆のう・膵臓・肝臓の病気、脂質異常症、心血管疾患などで治療を受けている人は、自己判断で脂質を増減せず、主治医や管理栄養士にご相談ください。